ブログ

Blog

2023.5.29
少子化政策としての所得税、N分N乗方式の導入とは?

少子化がすすむ昨今、岸田総理が「異次元の少子化対策」を謳い、それらの具体的な解決策がメディアでも大きく注目されるようになりました。その中の一つとして、1946年に戦後の少子化政策としてフランスで導入された「N分N乗方式」という制度が、今日本でも議論されはじめているのをご存知でしょうか。

簡単に説明すると、「子供が多いほど世帯の所得税の負担が軽減される制度」なのですが、実際どのような制度で、現行制度とどんな違いがあるのかを、今回の記事で分かりやすく解説していきます。

日本の少子高齢化の現状

まずは、使われるワードの正しい定義からご説明させていただきます。

■少子化:出生率が低下し、0から14歳の子供の割合が少なくなること

■高齢化:65歳以上の高齢者人口が増えること

■少子高齢化:子供が少なく高齢者が多い社会(現代の日本を指す言葉として多様される)

厚生労働省の人口動態統計速報によると、日本は出生数を7年連続過去最小を更新し、2022年の出生数は初めて80万人を下回りました。コロナ禍での結婚数の減少や出産への躊躇も大きな要因となり、影響が大きく出たと考えられます。

また一方で、平均余命の延びによる急速な高齢化も進んでおり、WHOが発表する2022年の世界保健統計によると、世界で最も平均寿命が長い国は、日本で84.3歳でした。この背景にあるのは、生活環境の改善や、食生活などの栄養面、医療技術の進歩などにあるといえます。

対して欧米のフランスやドイツなど、少子化政策の手厚い国では、既に少子高齢化の状況を改善しつつあります。欧州各国の中でも、とりわけフランスは子育て支援が非常にきめ細かく、今回のN分N乗方式でも既に成果を挙げた国として認められています。

N分N乗方式とは

N分N乗方式は、子供が多いほど世帯の所得税の負担が軽減されるとお伝えしましたが、いったいどのような仕組みなのでしょうか。

この制度は、現行の制度と大きな違いが2つあります。

①課税の対象が「個人」ではなく「世帯」
②子供が多いほど「N」が増えて税負担が軽くなる
 (フランスでは大人を1、子供を0.5としている)

現行制度では夫婦共働きの場合でも、個人ごとに納税額が計算されますが、「N分N乗方式」では1世帯の所得合算を家族人数で割ることになるので、夫婦2人の所得であっても子供がいれば母数が増え、課税所得が大きく減額できるのです。

下記の図をご覧いただけば、イメージが湧きやすいと思いますので、是非ご覧ください。

導入にあたっての問題点

現在では高収入な人ほど多く税金を収めることになっていますが、N分N乗方式の場合、たとえ高収入でも子供が多ければ納税額は少なくなります。そのため、現状の税収を維持するためには累進課税制度の見直しなど抜本的な税制改革が必要といわれています。

また、個人ではなく世帯単位の収入となるため、共働き世帯よりも片働き世帯のほうが有利になることや、生涯未婚率の上昇も報道されている昨今、子供がいない独身者や単身者にとってはメリットがないため、恩恵が受けづらい国民からの反対意見が出る可能性も懸念されております。

まとめ

今回のコラムでは、日本の現状とN分N乗方式に関してご紹介させていただきました。

少子化が注目されている今、子供が多い世帯ほど所得税が軽減されるN分N乗方式の導入は子を持つ親や、妊娠出産を希望している人にとっては非常に前向きなニュースですが、導入に関しては様々な課題がありそうです。

同じ制度の導入に成功しているフランスでは、この制度だけでなく、そもそも出産費用や教育費用が無償で経済的負担が抑えられていること、父親の育休取得の義務化、誰でも利用できる保育など環境面の整備も整っていることが成功の要因であると考えれます。

まだまだ課題が残る少子化対策ですが、導入されれば大きな減税にもなりますので、今後の動向に注目していきたいですね。